東京芸術大学音楽環境創造科
大学院 音楽音響創造
卒業制作・論文 修了制作・論文発表会2019
TOKYO UNIVERSITY OF THE ARTS GRADUATION WORKS EXHIBITIONS 2019
開催日時
2019 2.9(土)-2.11(月)
9日・10日 10:00-19:00
11日 10:00-18:00
この春に「音楽学部:音楽環境創造科」を卒業、「大学院:音楽音響創造」を修了する学生たちが、本学で学んだ成果を制作作品・研究論文として、発表します。
一人ひとりが描いてきた成長の軌跡とその集大成を、ぜひご覧ください。
作品発表
言葉・動き・音楽による生演奏つきのパフォーマンス作品。共同制作者である石原朋香の創作した物語をもとに構成される。物語は石原朋香の祖父母が遺した俳句をもとにしたもので、劇中では若い男女の会話や俳句など様々な種類の言葉が行き交う。その中で音楽は、それぞれの場面に散りばめられた要素をまとめる役割を果たしながら、言葉を選ぶようにリズムを、動きを選ぶように音を選んで演奏される。
舞台作品を制作する際、制作者が音や音響を演出の重要な要素と位置付けて作品を作ることは少ない。そこで本作品では、そのような舞台作品制作における音や音響の位置付けに着目し、音や音響が作品の要となって物語を展開していく力を持つ作品を制作した。舞台特有の「観客の主観」と「登場人物の主観」の違いを操作することで、作品への没入を誘導するような音響的アプローチを試みた。
近年、多くのエンターテインメントの場で使われるプロジェクションマッピングや工夫に富んだ映像、巨大装置などの最新テクノロジーの数々。これらは舞台芸術でも作品の一部として使用されて様々な舞台作品が生まれている。では、音響技術はどうだろうか? 「音響作品」の域に留まりがちなサラウンド音響システムを、演出のひとつとして、作品を構成する一部として取り入れた演劇作品。
自然と人との関係性をテーマとした4群弦楽オーケストラのための作品。バイオリン3名、ビオラ1名、チェロ1名、コントラバス1名を1群の基本構成として、各群が指揮者の前後左右4方向に扇型となるように並び、異なる奏法による音色の変化や音の移動など、空間性を意図した音楽により自然を表現することに試みた。
いちはやく復興した岩手県宮古市魚市場。そこでは岩手県沿岸地域独特の方言でのセリが行われ続けている。その時々のセリ人や買い手、水揚げれた海産物によってセリのスピード、声、内容は異なり二度と同じセリを聞くことはできない。セリを行う際に偶然起こる声の重なりや言葉のモチーフが折り重なり新しいメロディが生まれる。
作品についてのテクストが作品全体を容易に覆ってしまうことは誰もが恐れています。 言葉は不思議にもそれが指す物、それを指す者を本来からどんどん別のモノにしてしまいます。私が自分について語る時も。作品について語る時も。 まさに、この作品は会話そして言葉についての作品です。
前を行く彼女の背中を追って、時折くっついたり離れたりしながらあなたは街を移動していく。
大きな物語がなくとも見ていられる、そこに居られること。 <待つ>ことで生まれる居心地、役者やすれ違う人々の身の置き方、置きようについて考えました。 片道45分ワンカット×4本の映像インスタレーション。
複数のスピーカーと糸を用いたサウンド・インスタレーション。 スピーカーから発せられる音(振動)が、糸を介して波に変換され、模様として空間にあらわれる。
過去5年の自作品を素材とし制作された作品である。用いられた作品には,ライブエレクトロニクス作品,電子音響音楽作品など様々である。 すでに完成された楽曲を素材として用いることにより,素材一つ一つは大きな音楽的なエネルギーを持つ。 それらを組み合わせ,個々の作品の個性を残しつつ大きな塊のようなものを作る感覚で作曲された。 本作はステレオで制作されたが,今回は8.1chマルチチャンネルで上演する。
どこまでが音楽であり、どこまでが騒音なのか。 ノイズや日常の環境音を素材としたミュージック・コンクレートと、エレクトリック・ギター特殊奏法のライブパフォーマンス。
ヘッドフォンで再生される、全編バイノーラル収録のオーディオドラマ。突然恋人に別れを告げられた男は、彼女の面影を探しては二人の思い出の地を一人訪れていた。時が経ち、やがて彼は二人の別れの真相と彼女の隠された想いを知ることになるのだった。結ばれなかったふたりの物語を、彼の一人称視点から描く。
アメリカの女性詩人エミリ・ディキンスンの詩を用いた、フルート、女声コーラス、朗読、スピーカーによるコンサート作品。言葉と音楽を対等に扱い、複数の詩をまとまった1つの物語や設定として表現した。また言葉も様々な伝え方を用いることで、より多角的に彼女の内面や人間性、詩作品の魅力をも表現し、聴衆の想像力を喚起する作品を制作することを目指した。
人間が視覚と聴覚によって認知できる世界は限られている。そして、自分の姿を見る事ができないし、自分の声も聞く事ができない。鏡は自己認知のために大きな役割を果たした。鏡の中の世界は真でもあり虚でもある。本作品は声(ソプラノ)を素材として、伸縮、反転、逆転、ダビング、ピッチとリズムをずらすなどの様々な処理を行っている。さらに、ピッチシフトを使って声の音域を広げ、交錯感を出しながら22.2音響システムによって、現実と幻、有限と無限、対称と非対称を表現している。
独奏コントラバスとライブエレクロニクスのための作品。 コントラバスは主にオーケストラで低音を支える役割を担うが、 独奏楽器としても広い表現力を持つ。また、ライブエレクトロニクスは 楽器の演奏中に発せられる様々な音をその場で収録し、 自由に加工して利用することができる。 この作品は、コントラバスのDの音から開始し、 奏法をコントラバス自身の力や、ライブエレクトロニクスの力を借りて 楽曲中に変形し、発展させていくシナリオで構成される。 Contrabass: 地代所 悠
論文発表
こんにち多く遊ばれているコンピューター・ゲームに登場するモンスターの特徴のひとつに「強さ」がある。筆者はモンスターの鳴き声が、その強さを知る手がかりになると考え、本当に強さが判断できるのか、できるとしたら鳴き声の音のどのような要素が影響を及ぼしているか調べるため、ポケットモンスターの鳴き声を用いて2つの主観評価実験を行った。その結果、鳴き声の長さと、音の高低から強さに関する判断をしていることが明らかになった。
果たして、エンターテインメントは非日常の遊びであるのだろうか。東京ディズニーリゾートとそこへ通うディズニーオタク、通称「Dオタ」たちの姿から、現代において日常化しつつあるエンターテインメントと新たな遊びの関係性を考察した。
千住地域で採集した音を使いこなして遊ぶアートプロジェクト《千住タウンレーベル》。アーティストのアサダワタルとともに、「タウンレコーダー」と呼ばれる市民メンバーたちがオリジナルのローカルサウンドメディア『音盤千住』を制作しており、2017年に1枚目のLPが完成した。本論文では、2018年1月に開催されたレコ発イベント〈聴きめぐり千住!〉に焦点を当て、録音メディアのあり方やその受容、そして聴取という行為について考察を試みた。筆者の3年間にわたる参与観察から見えてきた『音盤千住』のおもしろがり方とは?
近年、日本でブームになっているフクロウカフェ。多くの人が「かわいそう」と心のどこかで感じながらも、フクロウに癒しを求めて店を訪れている。その感情と行動の矛盾はなんなのだろうか。フクロウカフェでアルバイトをしている筆者が、フクロウカフェの現状をまとめ、そこで露わになる人間の欲望について考察を試みた。
日本人がもっと踊るようになったら日本の社会はもっと良くなる、と筆者は信じている。’おどり’が社会の波に揉まれる現代人の救いの手となり得ること、そして社会の中の人々を繋ぐツールの一つとして機能し得ることを確信している。そのような観点からいくつかの事例を紹介し、‘おどり’を再定義したうえで、有用性や効率ばかりを求められる現代人が、日常の中で「無用な身体」を持つことの重要性を提唱する。※校舎内の階段踊り場にて〈踊り場でおどるための実験 #0〉実施中
2010年代に注目が高まる、音楽とメディアの関係性を注視した音楽実践(ポスト・テクノ、ヴェイパーウェーヴ、ローファイ音楽文化、ライブコーディングなど)を並列的に取り上げ、それらの持つ音楽メディアへの批判的な視点を洗い出した。最終章では、それらいくつかの視点をもとに、デジタルメディアの溢れる現代社会でのメディア・リテラシーについて、問題提起を試みた。 発表中には作品資料の鑑賞やライブコーディングのデモンストレーションがある。同時に、論文にも関わるような筆者の音楽活動のアーカイブ展示も行う。
「世界を戦術的に生き抜いていくこと=手持ちの札でなんとかやっていくこと」という切り口から、同時代に起こっている様々な実践と筆者自身の活動について考察する。
遠鳴り・そば鳴りで吹き分けられたオーボエ演奏音を用い、奏者やリード・楽器の状態が異なっても聴取者は吹き分けを区別できるか、吹き分けられた演奏音がどのような音色・特徴なのか、について明らかにする目的で実験・分析を行った。結果、奏者や音高によるものの、遠鳴り・そば鳴りの吹き分けは区別され、吹き分けによって評価が異なる音色表現語や特徴があることが示唆された。最後にそれらの評価値と相関がみられた音響特徴量について検討した。
音質を評価する言葉として「パンチのある音」という表現が使われる。 この「パンチのある音」とはどういう特徴を持った音なのか、市販楽曲やバスドラムの音源を用いて比較実験を実施し、その性質を調べた。 実験結果からは「低域の量感」と「エネルギーの急峻な変化」という2つの特徴が関係している事が分かった。 また、「パンチのある音」の感じ方の個人差はこの2つの特徴の影響力のバランスに起因する可能性が示唆された。
最近は様々な飲食店でバックグラウンド・ミュージック(以下、BGM)が流されている。しかし、どのような店でも常に一定の音量でジャズが流されていることが多いなど、その利用法については軽視されていると筆者は感じている。そこで、飲食店のジャンルやBGM楽曲そして店内の騒がしさが、BGMの再生音量の設定に及ぼす影響および飲食店やBGMの印象評価に及ぼす影響について検討した。
ヘッドホン使用時、その遮音性能の違いによって外部の音のうるささに差が生じるのか。更に、音楽聴取時に周囲の音をうるさく感じにくいヘッドホンとは具体的にどのような物であるのか。 これらの事柄を明らかにするため測定と主観評価実験を行った。 結果、遮音性能の違いによって外部の音のうるささの印象に有意な差が見られ、特定の周波数帯域の遮音に優れる機種は周囲の騒音に対してうるささを感じにくいという傾向が見られた。
「かわいい」と感じられる音にはどんなものがあるのだろうか。これを明らかにするためには、まず、音のかわいさはどんな観点から評価されるのかを調べる必要がある。そのため本研究では、評価語と音刺激を用いた主観評価実験により、音のかわいさの評価尺度の抽出を行った。続いて、それぞれのかわいさがどんな音に結びつくのかを調べるため、実験に用いた音刺激の音響パラメータから、各尺度と対応する音響特徴量の検討を行った。
東京芸術大学千住キャンパス
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